花粉症は公害

1.初めに

 会社終わりの17時過ぎ。以前までは職場を出る時は黒一色だった空に若干夕陽の明るい色が混じっていることに気づきます。日の出ている時間が徐々に長くなってきています。それに伴い、真冬の寒さも和らぎ手袋も持ち歩かなくても良いかなと思ってきます。春の訪れ間近の2月中旬。動物も活動を始めるその時期、日本国民の5人に1人は気温の上昇に比例して憂鬱になってきます。気温が上昇したある日、くしゃみが止まらなくなり、目が痒くなり、鼻の元栓が壊れ鼻水が出続ける症状が顕在化します。

 花粉症とは恐ろしいもので、病と無縁の屈強な人や60歳の孫が出来た人やお金持ちでも関係ありません。ある日突然訪れる花粉症は一度発症したら基本治りません。花粉症の人は様々な対策を試み、花粉と対峙します。有効と思われるのが薬の服用です。それも花粉が飛散する前から飲むと効くそうです。そして一番有効な方法が花粉を避けることです。マスクやメガネなど通常であれば不審者の格好が花粉の時期は許されます。出来れば外出しないのが一番です。花粉症の人にとって一番の楽園は沖縄です。沖縄は日本で唯一花粉発生源のスギが存在しないのです。実際、楽園を求めて旅立つ人は数多く、「花粉症逃避ツアー」なるものも存在します(なお北海道にもスギは存在しません。しかしそこにはシラカバの花粉が存在し、それが原因の花粉症があります)。

 日本国民の5人に1人が発症している花粉症。この時期になるとテレビでは天気予報と共に花粉予報も発表されます。もはや国民病と言っても差し支えない花粉症。私が発症したのは高校生からです。花粉症による目・鼻などの苦しみはもちろんのこと、花粉の時期になると花粉を避けるために自転車通期が出来なくなります。薬による副作用などもありこの時期は日々の行動が制限されます。私は昔から花粉なんて無くなればいい。スギを全部伐採してほしいと願ってきました。しかし花粉症発症から早十年。花粉の飛散状況は収まる気配がありません。常々感じてきたことですが、周りの人たちは時候の挨拶のように花粉の話をします。花粉とは自然現象であり、どうしようもないもの。皆そのように考えているように思います。しかし私はこんなにも多くの人が苦しんでいるのに、何故スギを伐採しないのか。本当に仕方が無いものとして諦めなければならないのか。一度しっかりと調べてみたい。そう思いこの文章を書きました。

2.スギの生態。

 地理の授業で習ったことの復習です。北は北海道、南は沖縄と日本は南北に延びた地形をしており、地域によって植生する木々の種類が異なります。沖縄など南の地域は亜熱帯地域に属し、クス類、アダン、木性シダ等あまりなじみの薄い種類の木々が植生しています。一方北海道などの亜寒帯にはエゾマツ・トドマツに代表される針葉樹林が多く植生しています。その中でスギは、照葉樹林帯から暖帯落葉樹林帯と呼ばれる地域に分布しています。日本の国土の大半はこのスギが植生する区域に属します。一口にスギと言ってもスギは多くの地域品種があります。屋久島に植生している屋久杉などは皆さんも聞いたことがあるのではないでしょうか。他にも奈良県の吉野杉、秋田県の秋田杉などがあります。スギは細長く伸び、大きいスギだと高さ50mにもなります。

スギは風媒花と呼ばれ、受粉に当たって花粉を雄しべまで運ぶ手段として風を利用します。スギは受粉の手段を風に頼り広範囲に飛散するため、多くの人が花粉と接触することとなります。一方受粉を風に頼らない種類もあります。虫媒花や鳥媒花は、花粉の移動を虫や鳥に頼ります。これらの植物は虫鳥を誘引するために美しい姿や強い香り・蜜を花に蓄えます。スギ花粉症の人の偏見でしょうか。虫媒花のように受粉のために美しい姿に形を変える努力をしている植物に比べ、スギ花粉の受粉はなんとも乱暴に思えます。とにかく大量に花粉を作り風に乗せ受粉させる。異性を引き付けるために自分を着飾る人と見境なく異性にアタックする人、虫媒花と風媒花を人に例えるとこのような感じになるでしょうか。

3.花粉症とは

 花粉症とは植物の花粉に起因するアレルギー症状であり、花粉が目や鼻などの粘膜に接触することで引き起こされます。原因となる花粉はスギだけでなく、ヒノキ・ブタクサ・イネ科の植物も花粉症を引き起こします。花粉症の主な症状はくしゃみ、鼻水、目のかゆみです。目の痒みは一度痒くなり目を擦ったが最後。擦ったことが原因で更に目が痒くなります。そのつらさは、目を取り出して洗いたくなるかゆさと表現すれば少しは花粉症の人の苦しみが伝わるでしょうか。くしゃみ・鼻水は、鼻の粘膜に接触した花粉を外部に出そうとする仕組みです。しかし、花粉の時期は呼吸をする度に花粉は接触します。つまりくしゃみ鼻水は止まることがありません。花粉症の人はマンガに出てくる洟垂れ小僧のようであり、その時期は好きな人にアプローチすることも難しくなります。この一点だけでも花粉症の人のハンディキャップをご理解頂けると思います。また花粉症がひどくなると倦怠感の症状が出る人もいます。そうなると日常生活にも支障が出てきます。

4.花粉症の歴史

 花粉によって引き起こされるアレルギーは古代ローマ時代の文献に花粉症のような記述があり、一説には紀元前から花粉症は認知されているとも言われております。ただはっきりと花粉症が認知されたのは近代になってからです。1873年にイギリスでイネ科の花粉症が認知され、その後アメリカでもブタクサの花粉症が認知されております。日本でスギによる花粉症が初めて認知されたのは意外にも1963年まで待たなければなりません。医者の斎藤洋三氏は春に目や鼻のアレルギー症状の患者が多く発症していることに気づきました。そこで今までの診察記録を確認すると毎年春になると同様の患者が増えることからスギの花粉症の存在に気づき、それを証明しました。そして1980年代になるとスギ花粉症の患者が爆発的に増えたことで社会問題として認知されるようになりました。このようにスギ花粉症の歴史は意外にも短くスギ花粉症発見の1963年から起算してもまだ50年程度の歴史なのです。

5.スギ花粉症患者が増加した背景

 スギ花粉症の歴史は50年程度ですが、スギ自体は古くから存在しております。そうすると古くから存在するスギが何故近年猛威を振るうようになったのかという疑問が湧きます。これには2つの理由が考えられています。

まず一つ目が、戦後スギを多く植林した影響でスギが増えたことが挙げられます。詳しくは次章で説明しますが、戦後スギを多く植林したことに伴いスギが爆発的に増えました。日本の総森林面積2510万haの内、植林された人工林のスギが450万ha。日本の総森林面積の約18%になります。スギの増加に伴いスギ花粉の飛散量が増え、花粉症が増えたと言えます。スギ花粉は植林から20年程度経過すると大量に花粉を出すようになります。植林政策が進められたのが戦後1950年代であることを考えると、1970年代に花粉症が社会問題化したことと時期が一致します。

二つ目に、環境の変化が挙げられます。一番の変化が大気汚染です。車の排気ガスがアレルギーの症状を助長しているという研究結果が発表されております。何故排気ガスが花粉症に結びつくのかと思われる方もいるかもしれません。実験では排気ガスを吸引したマウスは花粉症発症率が高まるとのことです。東京都のディーゼル規制は当時都知事であった石原慎太郎氏が花粉症のため進められたとも言われております。また街の整備が進み地面が土からアスファルトになったことも花粉症を助長する要因と言われております。アスファルトが地面の場合、地面に落ちた花粉が風で再び舞い上がり易くなり、人と花粉が接触する機会が増えたと言われています。

正直申し上げるとアレルギーの問題は非常に複雑で現在でもどのようなメカニズムで発生するかがはっきりと解明されていません。上記説明も推定です。ただ花粉症は花粉と接触し発症することに疑いの余地はありません。花粉症患者が増えた主要因はスギが増え花粉が多く飛散したことであると言えます。そして排気ガスやアスファルトはそれを助長する二次的要因であると言えます。

次回の後半部では、スギ花粉症の歴史、行政の失政、そして今後の進むべき方向性についてご説明致します。


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